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紙の本から織物について考える



とても美しい本に出会ったので、最近は本ばかり読んでいます。


図書館の書庫の本を出してもらうのを待っている間、何気なく近くの植物関係の本が並ぶ棚を眺めていて、この本の装丁の美しさに吸い寄せられました。


借りる予定だった数冊の本とともに、そのままいつも読書を楽しむカフェに連れていき、読み始めて、今度はその内容と言葉の美しさに夢中になり、その日のうちに本屋さんに注文しました。


『宇宙樹』というタイトルからスピリチュアル系を想像される方がいらっしゃるかもしれませんが、そういうわけではありません。


まだ途中までしか読めていないのですが、薬草医学や占星術、染色などとも絡められた内容は、文化人類学者である著者・竹村真一氏のフィールドワークや長年の研究に立脚した奥深いもので、読みごたえがあります。そして何より、微細で心地良い振動が伝わってくるような文章の美しさが印象的です。紙の本でしか伝わらない力がそこにあるような気がします。


この本の中で、薬草医学と染色というのは「薬」と「色」という植物の精髄を引き出すという点で共通しているだけでなく、自然の植物染料を使って布を染めることで、「色を身にまとい」「薬を身に着ける」という、本質的に同じものの二つの側面があると書かれています。


そこから思い至ったのは、植物染料で染めた糸で織られたキリムや絨毯を居住空間で使用することは、その植物が持つ薬効成分の恩恵も得られるという意味合いもあったのではないかということ。もちろんそこには病や不幸、禍などを運んでくる目に見えない魔のようなものから部族、家族を守る精神的な意味での浄化の意味合いも大きいと思いますが、薬として衣を身にまとうように、日常的にその上に座る敷物の薬としての役割ということも考えられるかもしれないと思うと、伝統的な織物を暮らしの空間に取り入れるということには大切な意味合いがあるのではないかと改めて考えさせられました。


さらに、多くの伝統社会では母親自らが植物染料で染めて民族の象徴文様を織り込んだ衣を通過儀礼に際して娘に贈ってきたという伝統。これは嫁入り道具としてキリムや絨毯を織ってきたという伝統にも重なります。


「こうした色とかたちの文化遺伝子の継承は、まさに薬草の生命力を私たちに伝えてくれる治療師と同様、次なる世代の生を調律し、民族の宇宙的記憶と生命観を伝えながら、新たな世代の社会的な位置を芸術的に表現しようとする営みなのだ。」(『宇宙樹』P15、竹村真一、2004年)


自然の染料で染められた手織りキリムや絨毯を静かに眺めていると、心の中が調律されていくような感覚を受けることがあります。

それは、自然染料の「色」が持つ効能そのものに、はるか昔から部族内で伝えられてきた色彩感覚と部族の象徴文様が持つ意味が加わって、体と心を整える作用をもたらすからかもしれません。


この本に出会ったことによって、流行のものではなく、昔ながらの部族の織物を、不器用ながらもご紹介し続けていきたいという思いを新たにしました。



#宇宙樹 』とっても素敵な本です。

#富山市立図書館 にあります。気になった方は手に取ってみてくださいね。そして、もし購入するなら、ぜひ街のリアルな#本屋さん で注文していただけると嬉しいです。#紙の本 と日常的に触れ合える街は素晴らしいです。#本屋さんがある風景 残していきたいです。


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